【 和洋折衷 】








「…………だからってこれは……」
 確かに言い出したのは自分だ。それは間違いない。
 けれど、言い出したこととソレを理解するのとは別問題だろう。つか、実際問題コレは有りえない。
「テメェ自分でやるっつったんだろうが!」
 かなりご立腹中の景吾は、ある意味とばっちり。
 大概において加害者──言い方は悪いが──の方に身を置くことが多い男だが、今回ばかりは被害者だ。そう、自分と同じ。少しだけ言って良かったと思う。
「クソ! なんで俺が……」
 ぶつぶつ文句を言いながら、景吾はそれらの衣装を身にまとう。
 言うなれば、どこぞの王国の王子様ルックとでも言おうか。ついでに黒髪の長いカツラも用意されていた。ロングヘアーな景吾、しかも女装じゃない、なんてちょっとばかりレアだ。
 対する自分はといえば、なぜか遊女。最高に有りえない。
 卑猥な真っ赤の長じゅばんにわざとらしい真っ白な着物。透かしの綺麗な文様が入っている。しかも、しっかり着付けした後にわざわざ崩された。裾なんて、足が太ももが見えるくらいまで乱されているし、肩もあらわになっている。男だからなんてことはないはずなのに、どうしてか恥ずかしくなるのはどうしてだろう。
「見事な和洋折衷ね」
 キラキラした瞳をして景吾の母親が笑顔を浮かべた。確かに和洋折衷だ。王子と遊女。
「何よりリョーマちゃんがとっても色っぽくて艶っぽくて最高だわ」
 首筋にツイと指が伸ばされる。思わず反応すれば景吾が睨みつけてきた。
「何してんだよ!」
「あーらあらあらごめんなさいねー! 私ったら可愛い子がだーいすきなものだからついつい。うふふふふふふ」
 恐ろしい笑顔を浮かべる景吾の母親。大層おっかなかった。

「それじゃ、写真撮りましょうか。ちゃんとしたカメラマンさん呼んだから安心して」
 何をどう安心しろというのか。むしろ他人のこの状況見られることの方が困る気もしないでもないのだが。
「綺麗に撮ってもらいましょうね」
 そんな景吾母のお言葉。確実に目線は自分に来ていた。自分だけに。





 その撮影会は、どこか異様な雰囲気だった。カメラマンはなぜか凄まじいほど緊張していたし、景吾母の目線も恐ろしい。

 ………脅されているのだろうかと少々考えてしまった自分は悪くはないと思う。多分。



 そして。

 出来上がった───


 倒れ付す自分を押し倒してる景吾だとか。
 絡むように自分を抱きしめる景吾だとか。
 口付けを交わす自分達だとか。

 脱がされそうになってる自分だとかの写真は。





 ────今年の年賀状としてばら撒かれたのだった。







■氷帝フラッシュからの再録。もういいだろうと思ってアップしてみた。