【 いたずら 】














 それは、リョーマにとって耐え難いことだった。
 あの男にとってみればくだらない、他愛もない遊びの一つなのかもしれない。が、しかし。
 リョーマにとっては、何よりも辛いことであり、切ないことでもあった。

「……………ってワケで忍足侑士さん」
「なんや?」
「俺としてはどうしてもきつくてならないのでやめていただきたく思います」
「………何を」
「景吾の寝顔にいたずら書き」

 沈黙が落ちた。

「お前も楽しんでたやろ」
「それについては認める」
「せやろ」
「うん」

 またしても沈黙。

 が、リョーマはフルフルと頭を振ると。

「…………目覚めた景吾を見てないから言えるんだよ…」

 遠くを見やって呟いた。
 今も目を閉じればすぐにでも浮かび上がりそうなあの景吾。

「………っっ!!!」

 思い出してしまったリョーマは引き付けを起こしたようにお腹を抱えた。

「何笑とんねん」
「だってアノ顔…!! 景吾が顔を洗いに行くまでずっと見続けたんだよ俺…!」

 それまでの地獄とも言うべき笑い衝動と戦っていたことを思い出すと、自分良く頑張ったなと思うリョーマ。
 まぁ、景吾が傍から離れた途端に笑い始めたのは仕方ないこととして。だって、あんな景吾を見てしまったら、誰だって笑わずにはいられないに決まっている。

「………それは……きっついなぁ」
「当たり前じゃん! 凄いきつかったんだからね!」

 というか、起きた直後の景吾が何気なく話す言葉ですら「コイツ何言ってんだろこんな顔で」としか思えなくなるのだからたまらない。どんな話をしようとも、あの景吾が真顔で「君の瞳に乾杯」とか言ってるレベルなのだ。

「しかもその後……凄いお仕置きされたし……」

 ちょっとだけ涙出そうになるくらいに凄まじいお仕置きだった。
 ……きっとあの顔でメイドとかに出くわしたんだろうなぁとリョーマはその時のことを思い出してみる。しかも景吾、大層笑われたんだろう。なんて可哀相な景吾。でもその場面を見たかった、とか思うリョーマは自分間違ってないと思ってたりもする。

「だからね、忍足侑士さん」
「なんや?」
「ちょっと景吾を呼んでみたワケだ。諸悪の根源について深く深く話した上で」

 ビキ、と忍足の顔が固まった。

「よぉ、忍足」

 そして、忍足家侑士の部屋へと颯爽と乱入、もとい登場する景吾。しかも凄まじいほどにお綺麗な微笑と共に。
 綺麗な微笑を浮かべる景吾ほど恐ろしい存在は無い。あの時のお仕置きを思い出して少しだけ身震いするリョーマである。

「か、堪忍してや。ちょっとした遊び心やん」
「ほぉ、遊び心、なぁ。じゃあ今から俺がすることも、俺の遊び心だ。覚悟して味わえ」
「そんな覚悟した無いわー!!」

 やめてー!などと、どこぞの生娘みたいな叫び声を発して忍足はお花畑へと旅立っていった。
 








 まぁ、忍足へのお仕置きが過酷を極めたことだけは記しておこうと思う。勿論色気などこれっぽっちも含まれないお仕置きである。当たり前の話だが。

「勿論、アレだけで済ます気は毛頭ねぇけどな。リョーマ、お前もだぞ」

 なんて言葉を承る忍足侑士と越前リョーマ。
 

 けれど懲りない忍足は今も計画を練っていたりする。
 そしてそれを敏感に感じ取った景吾がむしろカウンター攻撃を仕掛けようとしているなんて、忍足は知る由も無かった。













END





■跡リョに20のお題より 19「君の瞳に乾杯」