どうしても手に入れたかった。
その瞳と思考を、自分だけのものに。
他の誰の侵入も許さず。
何を奪ってでも。
【 君しかいらない 】
切っ掛けはよく覚えていない。
何が自分をそうさせたか。そんなことはよくは分からない。
ただ、気付けば欲していた。越前リョーマを。ただ闇雲に、愛していた。
「逃げたいか?」
「────逃げる? むしろアンタを殺してやりたいね」
切りつけてくるような、その瞳の熱さに、激情が吹き荒れる。
「………だろうな。けどリョーマには出来ねぇ。
お前に出来ることは、喘ぐことだけだ」
シーツの上、何も纏わない綺麗な身体に、キスを落としていく。
リョーマの両腕、両足には枷。鎖に繋がれたその姿は、磔にされた囚人のようだった。
「そういえば────お前の捜索願いが出されたぜ?」
ビクン、と自分の下に在る身体が震え、鋭い瞳がこちらを射抜く。ゾクゾクした。
「……………なんでアンタは…!!」
「理由、知りてぇか?」
囁きながら、リョーマの中に入り込む。そのまま深く深く、息を吐いた。
「ただ、俺以外の人間が、お前の目に入るのが………嫌だっただけだ」
言うだけ言って、リョーマの唇を貪る。当たり前のように歯を立てられた。けれど、離してやるつもりもなく。
「っぅ…んんっっ!」
血液の独特な匂いと味が、お互いの口で交じり合う。
他の誰も、越前リョーマの世界には必要ない。
自分だけが、存在していればいい。
「………逃さねぇ」
───決して。
リョーマの首筋にキスをして。血の赤を残して。
低く笑った。
「越前が行方不明になった………」
来訪者である手塚国光は、唐突にそう言い放った。その言葉に、跡部景吾が驚いて目を細める。
「マジで言ってんのか?」
「その様子じゃ、知らないようだな。ここ一週間帰ってないそうだ。しかも何の連絡も無しに」
「警察には連絡したんだろうな!?」
「捜索願いを出されたそうだ。
最近、こちら側の練習が忙しくて、お前たちが会っていないだろうと思っていたからな、知らないかもしれないと来てみたんだが。案の定だったか」
イライラしたように、景吾は壁に拳を打ち付けた。
「誘拐の可能性も有りうる、と警察は言っていたそうだ」
「だったら身代金の電話かかってんだろうが! 一週間も音沙汰なしなんて有りえねぇだろ!」
「…………あぁ、そうだ。誘拐以外の可能性が有り、そして、俺達にはなす術はない」
「───それで、か。それで…来たのか、手塚」
得心言ったというような表情を浮かべ、景吾は笑った。逆に相手は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「まぁいい。手塚に話されなくとも、いずれ分かったことだろうしな。
それに、俺が動くのは至極当たり前の話だ。アレは俺のものだからな」
「…………そう言うだろうと思っていた。話はそれだけだ」
景吾の言葉に、安心したように手塚は息をついた。
何も出来ない自分を呪い、そして自分に助けを求めずにはいられないこの男の心情がありありと分かる。
本当に、リョーマはたくさんの人間に愛されている。この手塚を筆頭に、青学の全ての人間の好意を向けられているはずだ。
「じゃあ、失礼した」
「構わねぇよ」
その言葉と共に、部屋の中にメイドが姿を現した。そのメイドに連れられて、手塚は部屋を後にする。
やがて、車の音がし、跡部家の用意したリムジンが、手塚を乗せて走っていった。
「…………気付かねぇもんだな」
「何、が」
「俺が、リョーマに関して他の誰かに遅れを取ること自体が有りえねぇってことにだよ。
もしも、リョーマが攫われてたら、俺は誰よりも先にその事実に気づき、リョーマを見つけ出してるだろうぜ」
「………………」
無言でリョーマは視線を他へ流す。あらわになった首筋に、舌を這わせた。
ビクリと震えそうになり、けれど必死にそれを押し隠そうとするリョーマ。今度は、白いソコに犬歯を当てた。
「ッ…!」
「コレには我慢するのも無理、か」
肌に手を這わせながら、リョーマの表情をただ眺める。
淫靡に変わるリョーマの姿を見るだけでも、快楽を得られるとは驚きだった。
濡れたように艶やかな唇に触れて、景吾は笑う。
「…………リョーマ、俺のものだ」
瞳を閉じた瞼の上に、景吾は厳かにくちづけた。
リョーマは景吾を憎み、リョーマの世界は景吾だけになる。
欲したのはリョーマの全て。
奪ったのは、リョーマの─────自由。
THE END
■跡リョに20のお題より 09「自由」