真夜中、なぜか目が覚めた。
ぱちぱちと瞬きをする。暗い部屋を月明かりが照らしていた。

ふと、隣に眠る男を見る。

「─────だからか」

思わず呟いてリョーマは笑った。








【 愛しいキミの手 】








手があたたかい。
景吾の手の中にある、自分の手が。

景吾はよく、リョーマの手を握り締めて眠る。
まるで、悪夢を見るのが怖い、みたいに。
そのおかげでリョーマは気付けば目が覚めてしまったりするのだが、だからといって外せないその姿に、苦笑するしかなかった。

「────アンタの殊勝な態度見れんのって……これくらいだしね?」

いつも余裕な表情を崩すことなんてない。
それが当たり前だと彼は信じている。そしてそれが真実、彼の日常だ。

「バァカ」

景吾の口癖を真似て呟くと、リョーマは景吾の手を引き寄せた。
その大きな骨ばった手の甲に、小さくキスを落とす。
別に自分の前でくらい楽にすればいいのに、と思っても言えないから。
その思いを唇に乗せて───







気付けば眠っていたらしく、リョーマが目覚めたのは朝だった。
ちゅんちゅん鳴く鳥の声と、そしてベッドの傍に丸くなって眠りを貪る景吾の飼い猫。
ふわぁと欠伸を一つして、リョーマは隣を見、目を見開いた。

「…………景吾が寝てる」

思わず呟いてしげしげと見る。
何しろ、朝、景吾の寝顔を見たことは一度として無いのだ。これは掛け値なしに本当のこと。
相変わらず繋がれた手の先、景吾は綺麗な顔で眠っていた。

いつもの景吾は、必ず自分よりも先に起きる。
そして、手を繋いで眠ってなど無かったかのように苦笑交じり、「起きたか?」なんて言うのだけれど。
今現在、まったく起きる気配が無い。実に珍しい。
余程疲れることでも昨日あったか、と色々思い出してはみるものの、特に何かがあったとも思えなくて。

繋がれた手はいまだ離れることなく───








目覚めた瞬間の景吾の顔を思えば、このまま何時間でも待てる気がした。











END



■跡リョに20のお題より 04「癖」