【 とある正月の一日 】









射しこむ光に目が覚めた。
鳥の鳴く声も聞こえる。朝だ。
身体を起こすと、隣で眠る男を起こさぬよう伸びをした。ベッドヘッドに置かれた時計の時刻はAM8:00。
絹のシーツの肌触りを名残惜しく思いつつも、喉が渇いて仕方ないのでベッドから降りようと足を地につけた。その瞬間、腕を掴まれる。

「………待て」

眠そうに薄く開かれた目と、眠そうな掠れた声。隣で寝てたはずの景吾だ。

「何起きてんだお前」

そして言われた言葉はそれだった。絶対に寝ぼけている。
一つため息をついて、リョーマは首を振った。

「目が覚めたから。それ以外にあるわけないじゃん」
「………普段は簡単に起きねぇくせに、正月だけ異様に早ェのかよ」
「人のことは放っときなよ。ともかく、俺は喉渇いてるの。腕離して」
「チッ………今何時だ」

言われて置時計を見る。

「八時」
「…………寝るぞ」

その言葉と共に、景吾に引き寄せられた自分の身体は、当たり前のように景吾の腕の中。

「俺は喉が渇いてるの。人の話聞いてる?」
「うるせぇ。いいから寝るぞ」

ガッチリ身体をホールドされて、逃げ出すことは到底不可能なようだった。
完全に眠る体勢に入った男は、目を閉じて一人夢の世界へ旅立とうとしている。

「俺は喉が渇いてるの!」

腹立ちまぎれに、頬をつねってやった。景吾の顔が嫌そうに歪む。もう少し。

「ねぇ、人の話聞いてる?」

無理矢理両方の頬をつねってやる。怒りを買おうがなんだろうが、ともかく自分は喉の渇きが潤うならばそれでいいのだ。気になり始めると、ともかく何か飲みたくて仕方なくて。
そう、いうなれば禁断症状。
やがて、薄く開かれた瞳がこちらを睨みつけた。

「手ェ離せ」

眠いところをチョッカイかけられて、大変機嫌が悪そうだ。しかしこっちにはこっちの事情がある。

「そっちこそ手、離してくれない?」
「……確か……喉が渇いてるんだったな?」
「だからさっきからそう言ってる。ファンタあったでしょ? アレ取りに行くからちょっと手離して」
「冗談だろ? 喉が渇いてんなら、俺のをやるよ」

言葉と同時に振ってきた唇。思わず頬をつねっていた手を離してしまった。
だって、そんな水分が欲しいわけではないのだ。決して。
力は景吾の方が圧倒的に上で。足掻いてもどうすることも出来そうにない。しかも、完全に目が覚めたらしい景吾の手が、妖しく動き出した。

「んっ…」

一度離れた唇は、まるで求めるかのように今一度合わされる。絡み合う舌に、頭のどこかが麻痺したみたいだった。
こうなってしまっては仕方ない。甘んじて受け入れるほか、術は無かった。









「結局……お正月とか関係なしに、休みの日はともかくこうなるワケ…?」
「だな。ま、仕方ねぇだろ」
「仕方なくなんてないし絶対!」
「仕方ねぇよ。ちなみにリョーマ、ファンタはいいのか?」
「あっっ! 結局何も飲まずに……ええっと………うわ三時間も経ってる!!」
「ぼけっと寝てたしな、お前」
「起こせバカ!」
「そんな悪戯し甲斐のある状況で、俺がお前を起こすワケがねぇだろバァカ」
「悪戯って何! 悪戯って!」
「………さぁな」

ニヤリと嫌な笑みを浮かべた景吾に対し、リョーマは思わず先ほどと同様、頬をつねってやったのだった。

勿論、その後の怒り、展開を覚悟して。









〜 了 〜