【 美少女な姫と野獣な帝王 】
跡部景吾邸、裏庭、大きなクスノキの裏に越前リョーマはいた。
こそこそと辺りを見回して、ほぅと息をつく。
「…………今って誰が鬼なんだろ……」
呟いてから、思いっきりため息をつく。
どうしたら、かくれんぼをしようなんて意見が出せるのだろうか。向日岳人の頭の構造が気になってしょうがない。バカらしいにも程がある。
「付き合ってる俺も俺だけど……」
誰よりも付き合わないだろうと思われた場所提供者の跡部景吾が参加してることも不思議でたまらないけれど。
もしかしたら案外、楽しんでるのかもしれない。
「なんかホントバカかも……」
誰がって、結局参加してしまっている…総勢十人のことだけれど。
「クッソ!」
ふと屋敷の方から声がした。開け放たれた窓の向こう、岳人が通るのが見える。
「こんな広い場所でかくれんぼしようなんて誰が言ったんだよクソクソ!!」
自分じゃん、と思いつつ、けれど声には出さなかった。岳人が鬼である可能性が高いわけだし。
「ちっくしょー!!出て来いよみんな!!」
大きな声で叫びながら走り去る。ああ、鬼なんだ、とリョーマは納得しつつ、移動を開始した。
さすがに、あんな木の裏なんかにずぅっと隠れてはいられない。どうせ隠れるなら、個室で狭くて、隠れやすい所がいい。とそこまで考えて、ふと、自分も意外と楽しんでいることに気付き、苦笑した。
「………さぁて、と。移動移動……」
慎重に、リョーマはその場を後にした。
正直冗談じゃないと思った。自分の家で、どうしてかくれんぼなんて幼稚なゲームをしなくてはならないのか。
相変わらず、岳人の考えは、奇妙極まりないと思った。
だからといって、始まってしまったものは仕方ないのも事実。仕方なく、景吾は、たらたらと廊下を歩いていた。
屋敷内のいたるところにある監視カメラに映った映像は、自分の手元にある小型モニターに映し出される仕組み。誰がどこにいるのか、大体の見当はつくようになっている。そういう理由で、景吾は誰もいない廊下や、暇つぶしにもってこいのプレイルームなどを渡り歩いて、鬼には捕まらずにいた。
「…………リョーマ?」
ふと、恋人のリョーマが歩いているのを、とある廊下の監視カメラが捉えた。コンピューターの制御により、監視カメラに映った不審な人間のみ、クローズアップされる仕組みだ。その拡大されたリョーマを、最先端の監視カメラのレンズが追う。
やがて、とある一室へと入っていったリョーマ。
「……………クッ…」
思わず笑った。その場所は、元より他のメンバー達に対して立ち入り禁止を申し渡してあった場所。さして重要でもない場所ではあるが、だからといって、入られては使用人共の働きに左右する。
いい加減、飽きてきたところ、いい場所に入ってくれたものだ、と景吾は唇を舐めた。
「……こういう部屋があること自体、嫌味だと思うけど……その部屋がこれだけ大きいのも……どうなの?」
ふぅぅ、と思い切りため息つきながら、リョーマは積み上げられたシーツの上に腰を下ろした。周りには、汚れたシーツが一旦一まとめにされているらしい大きなボックスやら、シーツやタオル等を運ぶための滑車のついたボックスがある。
「ホントにおっきぃ……何考えてこんなでっかいリネン室作ったんだろ……」
「教えてやろうか?」
突然の声に、思わず扉の方を振り向けば、想像したとおりの人物がそこには居て。リョーマは思わず目を細めた。
「なんだ…いいのか?」
扉を閉めて入ってくるのは、紛れも無い自分の恋人。なんとなく、ではなくむしろ、ビシバシに嫌な予感がする。
「別に…跡部邸にそんな詳しくなりたくないし」
「お前、次期跡部夫人だぜ? 知っておく必要あるんじゃねぇの?」
「いや、別に景吾と結婚するって決まったわけじゃないから」
「まぁ、どんなにお前が嫌がろうと、それは決定事項だけどな」
ククと笑って、自分の座るシーツの上に、ドサリと腰を下ろす景吾。ふと、何故か空気が変わったような気がした。
ねっとりと、纏わりつくような。甘ったるい空気。まるで、そうまるで────
「ちょっっっ!!」
気付いた時には座っているシーツの山の上に押し倒されていた。
もとより、父親がソレのために作ったらしいこのリネン室。この部屋に鍵をかけることが出来るのは跡部の名を持つ人間だけ。その人間が鍵をかければ、それは自動的にコンピューターに通知され、この部屋には誰も近寄ることはない。話によると跡部邸には、幾つもこのような部屋があるらしい。面倒なので聞き流してはいたが、今度詳しく聞いてみる価値があるかもしれない。
誰とするために作ったのかは知らないが、父親にしては面白いものを作ってくれた。まぁ、今この場で、使い道があるからそう思うだけなのだろうが。
「んっっ!」
押し倒したリョーマの唇に、深いキスを仕掛けながら、さっさとワンピースのジッパーを下ろした。
珍しく女の子らしい格好をしてきたリョーマを、実際問題、犯したくて仕方なかったのもあって。
そのままブラのホックを外して、一気にワンピースもろとも脱がせた。
「っっっ!!」
小さな胸があらわになる。慌てて胸元を隠すリョーマが、ひどく可愛かった。
「今更だろバァカ」
笑って言えば、頬を染めて睨みつけてくる。片手で必死になってこちらの胸を押してくるリョーマの耳を舐めてやった。ビクンと震えた瞬間を逃さず、両手を一まとめにして頭の上で固定させて。その肢体をゆっくり眺める。
白い小さな胸がピクンと揺れた。誘われるように右手で触れてその肌の感触を味わう。柔らかな感触にゾクと熱が昂ぶっていくのを感じた。
喘ぐ唇。ちろりとひらめく舌。その赤に誘われて、唇を奪うと、舌を深く絡ませる。
「ふっ…んはっ!」
リョーマの唇から、透明な糸が流れた。淫らなさまに、ひどく煽られる。
「もっ…ヤダ! こんなとこ……っ…ヤ…」
ふるふると首を振って、リョーマが抗う。いまだに、場所が嫌らしい。笑いながら、リョーマの耳に囁いた。
「バァカ……こういう所だからいいんじゃねぇか」
興奮するだろ、そう言えば、リョーマが真っ赤になって否定した。
「そんなことなっっ!」
ぶわ、と涙が溢れる。その涙を舐めとってから、ゆっくりと下半身に手を伸ばしたその時だった。
「何やっとんねん!!!」
ガンガンガンとかなりな勢いで扉を叩く音。思わず額に手を当てて静止した。
「チッ……邪魔すんじゃねぇ…クソが」
「何がクソやねん! 一人でいい思いしとるお前のがクソやろ!」
「ぁあ!?」
「どうでもいいから開けろや!」
「別に俺は開けても構わねぇけどな。ここにいるリョーマが開けると困る状況だからなぁ」
「ああもう…最悪や…絶対リネン室ってそんなことする場ちゃう!」
「オヤジはそのために作ったっつってたぜ?」
「もっと最悪や…なんなん跡部家って…おかしいやろ」
「いや、おかしいのはテメェだろ! そもそもセックスしてるの気付いたらさっさとどっか行くだろうが…」
「自分ひとりだけにおいしい思いさせるかっちゅうねん」
「……………」
やがて、言い合いの間に服を着たリョーマを確認して、ため息交じりに鍵を開けてやる。すると待ってましたとばかりに入ってきた忍足が、リョーマに抱きついた。
「あー…リョーマ…すまんかったなぁ…俺が至らんばっかりに…この野獣に犯されそうに…」
「何、人の女抱きしめてんだ…ぁあ?」
「うるさいでソコ! 自分リョーマとしとるんやからええやろこれくらい!
あぁ…やっぱムカつく…なんで跡部なんかが彼氏やねん…俺かてリョーマめっちゃ好きやのに……」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、リョーマがいい加減キレるだろうタイミング。
面倒なことになる前に、とリネン室の外へと出た。
そしてそのまま扉の外で笑いをかみ殺す。
ぶち切れたらしいリョーマの叫び声を聞きながら。
やがて出てくるリョーマを、今度は寝室へと誘い込む算段を考えて。
END