どうしてか夜中、目が覚めた。
月明かりしかない闇の中、身体を起こそうとして気付く。

「…………抱きしめて眠るなっての」

長い腕が、身体に巻きついていた。妙に重い。
大概、隣で眠るこの男の方が早く目が覚めているせいか、あまり気にはならないものだけれど。正直、こんなイレギュラーな場面では迷惑すぎた。

「……………あー……辛」

外との温度差で、窓は真っ白だった。










【 Night black 】










クリスマスだから浮かれすぎた、というのは景吾談である。とはいえ、リョーマから見れば、いつも通りの景吾ではあったのだが。
しかし、確かに酒が入って、少しばかり浮かれていたのかもしれなかった。もっとも、他の連中が凄すぎてそれどころではなかったという話なのだが。

それに、皆が帰った後の展開は、リョーマ自身あまり覚えていないのだ、酒が入っていたから。

だから、浮かれていたなどと聞かされても良くは分からなかった。


しかし、ふと思い出す。
夜、眠りながら抱きしめていた手が、妙に強かったことを。結局抜け出せずにそのまま眠ったのだ、リョーマは。
しかも、大概こちらの気配でか目覚めてしまう景吾が、全く目を覚まさなかったということも今考えると変だったかもしれない。それも浮かれていたせいなのか。

「……昨日何があったわけ?」
「知りたいか?」
「当たり前じゃん。景吾がクリスマスで浮かれるって…凄いことだと思うし」

呟けば、景吾がニヤリと、嫌な笑みを浮かべた。

「クリスマスで浮かれたというより、お前のせいで浮かれずにはいられなかったっつう話なんだけどな」
「………ハ?」
「夜に、覚えてねぇの? 俺のプロポーズにOKしたんだぜ?」


「はぁ!!??」


プロポーズって何…!?とリョーマは真っ白になった頭で必死に考える。

「………冗談でしょ?」
「そう思うか?」

余裕のあるその表情が嘘ではないことを物語っている。そもそもこんな冗談言ってどうするのかという話だ。

「つか! なんで夜にプロポーズなの!
しかも酒入ってるときにプロポーズって有りえないし!」
「酒っつうかやってる最中だぜ?」
「もっとありえないから!」

セックスの最中のプロポーズ?
しかもプロポーズされた記憶すらも無い。自分は一体何と返事したのか。もっともそれで浮かれたというのだからOKはOKなのだろうが。

「お前の返事は、嬉し泣きしながらのキスだったな」
「嘘だ─────!!!!」

ギャ!とリョーマは頭を抱えた。
嬉し泣き。涙を流した…?
しかも自分からキスをしたとは。
そりゃ確かに浮かれるな、とリョーマの冷静な部分は考えた。

「や、待って。
まさか……それは本当にプロポーズとして有効…!?」
「当たり前だろ。式の予定も決めたぜ?」
「……………有りえない」
「ま、諦めろ。録音しておいた」
「……………え……」

ピンポイントでその場だけを録音?
やがて嫌な現実が襲い来た。

「録画もな」
「ギャ─────!!!」








後日、屋敷中何かを探し回るリョーマとニヤニヤ笑う景吾が跡部邸でしばしば目撃されたのだった。









END