「………………真実はいつもひとつ」

 決して名探偵の子供の真似をしたかったワケでは無い越前リョーマと。
 あっははっは。と高笑いを続ける不二周助と。

 ぶっ倒れている菊丸英二と。

 ぴくぴくしている大石秀一郎と。

 ともかく今この場にはその四人しかいないのは確かなことだった。












【 名探偵 】











「そうだね真実は一つだろうねぇ」

 ふふ、となぜか楽しそうに呟くのは不二だ。

「倒れているのは英二で、この金ダライで頭を打ったんだろうことは確かだ」

 言いながら、不二は菊丸の頭付近に落ちていた金ダライを持ち上げる。

 ──いやそうじゃなく。

「そしてそれを発見した大石秀一郎氏は、その異様な光景にいつもの胃痛に悩まされた、と」
「あ、大石先輩の胃痛気付いてたんスね」
「そりゃ勿論。どこまでいじっていいかくらいは知ってないとね」

 あぁやっぱり計画的だったんだ、と今更ながらにリョーマは思った。ついでにぴくぴくしていた大石の動きが止まるのも目撃したりして。

「ってそうじゃなくて!俺が言いたい真実ってのは…………その金ダライを誰がっていうか一人しかいないけど設置したのかとその理由っス」
「あぁ設置した理由? そんなもの簡単じゃない。
 きっとどこかの誰かは見てたんだよ。英二が事もあろうに僕のリョーマ君に抱きつきあまつさえ頬にキスなんかしやがってしかも腰触って胸元触ったりしたことをね?」

 いやに具体的だな。リョーマは半眼になりながら思った。
 というかこの人それをどこで見てたんだ。

「ちなみに設置した人については知らないなぁ」

 真面目に付け足す不二に、リョーマは少しだけ目頭が熱くなるのを感じた。
 もう少し、もう少し自分を大切にして欲しかった。色々な意味で。

「へぇ…知らないんスか」
「知らないなぁ」
「俺ちょっとこの設置した人凄いなぁとか思うんスよね実は」
「…………ふぅん、そうなんだ?」
「……………で、どうやって設置したんスか?」
「扉が開くと落ちるようにね。結構苦労したんだよ?」
「不二先輩がやったんスね」
「あ、バレちゃったね」

 バレちゃったねもないもんだ。ため息すら出てこなかった。

「自首してください」

 とりあえず誰にって手塚国光にである。むしろ自主的に走ってこいやくらいに思う。
 いつもなら、知らぬ間に手塚も現れたりするので、そのまま流れで走らされることになるのだが。
 ちなみに、未だに納得出来ないのが、なぜ自分まで走らされているのかということである。良く一緒に走らされるリョーマとしては、一人で走る不二周助を是が非でも見てみたかった。
 すると不二が、神妙に頭を振った。そして悲しげな表情を浮かべて言い放ったのだ。

「僕のリョーマ君を置いてはいけないよ」

 頭の中を読まれている。
 直感的にリョーマは思った。

「俺は一人でも平気です」
「僕が平気じゃないんだよ」

 睨みつけるリョーマ。見つめる不二。
 めまぐるしくリョーマの頭の中で助かる構図が出ては消えしていた。
 経験上分かるのだ。そのうち来る。あの人は来る。

「事件ってものは、犯人が逃げなくても、結局は誰かが追い詰めるものなんだよ。追い詰められる僕の傍に、リョーマ君はいてくれなくちゃ」

 爽やかな笑顔を浮かべる不二に対し、リョーマは、あぁそうか逃げればいいんじゃないかということに今更ながら思い当たった。そうだ、何も一緒にいてやることは無い。とっとと逃げてしまえばいいのだ。
 しかし、それに気付いたときは、全てがもう遅かった。
 キィと不気味な音を立てて開くドア。恐る恐るそちらを見れば、仏頂面のあの人が、口を開いた所だった。

「ここにいる四人、校庭30周!」


 ───判決は下された。









「やっぱり、僕らは一緒に走ってこそだよね」
「…………」
「まぁ今回はオプションで猫と卵がついてきちゃったみたいだけれど。それくらいはね。たかが動物と食物すら許してあげられないんじゃ、僕の心が狭すぎるみたいだし」

 全然狭いだろ、アンタ。とは猫こと菊丸の言葉。
 卵と称された大石は、走りながら魂をどこかへ飛ばしている。

「それにしても、生憎今日は、リョーマ君の名探偵っぷりに僕の犯罪が暴かれてしまったけれど。例えリョーマ君がどれだけの名探偵でも……これからの僕の犯罪は止められないと思うよ」

 一体何する気なんだろうこの人。
 とはいえ、リョーマとしては、別に名探偵だろうが何だろうが、不二の犯罪は止められないと思うのだ。もういっそ、世界征服でも目指してもらった方が清々するというもの。
 ……絶対言わないけれど。

「それにしても今日は本当に清清しい一日だね!」


 勿論、不二一人に限ったことであることは言うまでも無い。









END


■己のタイトルセンスの無さに脱帽。