「…………ホワイトだね」

 パチパチパチと瞬きを繰り返してみても、頭を振ってみても。
 不二の視線は揺るがない。
 どうにかこうにか、聞かなかったことに、もとい発言をむしろ無かったことにしたいリョーマだったが、大石に止められてしまい、どうにもならない。

「……………ホ ワ イ ト だ ね !」

 発言は二度繰り返された。それも強調タイプ。
 最早、リョーマにはどうすることも出来ないのだった。









【 正しいクリスマスの過ごし方 】








「……………な、何スか?」
「や、クリスマスといえばホワイトクリスマスだなぁと。それだけなんだけれどね!」

 異様に上機嫌な不二に、リョーマは明後日の方向を向いた。
 このたったそれだけの会話が、一体どこへ転がっていくのだろうか。リョーマには見当もつかなかった。

「イルミネーションに雪が積もったら、さぞかし綺麗だろうねぇ?」
「そっスね」
「綺麗だよねぇ?」
「……………」

 返答は慎重に。
 それは不二との度重なる会話で学んだことだった。返事は何よりも慎重に行わなくてはならない。そうでなければ、戦えないのだ。色々と。
 そう、色々と。

「────イルミネーションに雪が積もったら、きっと綺麗っスね」
「あぁ、なんだそっちの話か」

 ───そっち…?

「いやごめん越前、僕はそっちの話じゃなくて、こっちの話をしてるんだよ」

 ───こっち…!?

 ちなみに、遠くの方で桃城がガタガタ震えていた。きっと幽霊でも見たに違いない。リョーマはそう確信した。
 今この場所には、明らかに不二とリョーマと、そして誰かが不二と話をしていたに違いないのだ。
つか、誰がどう考えてみても、不二の脈絡の無さは、脳内に誰か飼ってるとしか思えないのではあるが、それは誰も口には出さない公然の事実だった。

「………こっちの話って何スか?」
「嫌だなぁ。夜景は綺麗だよね?って話」
「……………参考までに、どこからの夜景っスか?」
「予約してあるホテルのだけれど?」

 見たことねぇ!と叫びかけてリョーマは慌てて飲み込む。そもそも予約って何さとリョーマは思う。やはり脳内幽霊不二周二──勝手に命名──は恐ろしい。

「あーはいはいはい!
 そういえば菊丸先輩は確か俺と遊ぶ約束してましたよねクリスマスイブからクリスマスにかけて一泊二日、お泊りで! 俺楽しみにしてるんスよお泊り! いっぱい楽しみましょうね英二先輩!」

 きっと、根元はここだ。ここに違いない。そうつまりはクリスマスイブからクリスマスにかけての、デートプラン。リョーマはそう確信した。

「へ、えー? 英二は僕のプランを台無しにしてくれる気なんだね?」

 無事、ターゲットはリョーマから菊丸英二へと移動された。リョーマは自分の好判断に喝采を送る。
 臨機応変に嘘をつく。それは不二と渡り合うには何よりも大事なことだった。

「否! 僕は思った! そんなプランは間違っている!
というわけで、僕と共にホテルに宿泊だね」

 けれど戻ってきた。
 虚ろになりそうな瞳で、一応の抵抗を示すリョーマ。

「…………………俺は思わないっス」

 精一杯さが欠けてくるリョーマに不二は笑顔で返す。

「そんなことは問題じゃあない…! 僕が思ったんだから…!」

 何がどう問題じゃないのか、とくとこの場で説明願いたいものだった。
 というか、このままいったらアレなのだろうか。不二と共にホテルで一泊夜景を見ながらみたいなことになってしまうのだろうか、とリョーマは半眼で考える。有りえない光景が目に浮かんでは消えていく。

「楽しみだなぁ、クリスマス。この日のために腕によりをかけて、プランを練ったからね!」
「腕によりをかける必要は全く……………って、あ!!!!」
「どうしたんだい?」

 リョーマは、大事なことを忘れていたのだ。そう、何よりも大事なキーワードを。

「俺の家、寺! 仏教! 寺! 仏教!」

 あまりにも興奮しすぎて、思わずリピートしていたリョーマだったが、とりあえず大石は、よくやったとばかり瞳に涙を滲ませる。
 目を見開いて固まる不二周助。きっと脳内不二周二と会話を交わしに脳に潜り込んでいるに違いなかった。
 寺に仏教。最強の呪文である。何せクリスマスなど無縁の世界。それが仏教。
 もっとも、リョーマ宅はあの父親が住職なワケだからして、クリスマスとは無縁に過ごせるはずも無い。黙っていれば目の前の不二周助にはバレないだろうから言わないでおくけども。

 何はともあれ、完全なるリョーマの勝利であった。

 周りの皆は、凱旋するリョーマを拍手を持って迎え、そして送り出した。
 そう、リョーマには大事な仕事が残っているのだ。仏教と寺という発言を確実にすべく、自宅の皆々と口裏を合わせるという、大事な仕事が。








 たかがクリスマスされどクリスマス。

 自分の誕生日くらい、家で静かに眠りたいと思う、リョーマ十二歳の冬であった。



















【Afterword】

アレよねー…ギャグネタも尽きてきたかなぁとか最初書きながら思ってたんだけど。
書くうちにあぁ大丈夫だと思い直した(あっはっは)
考えれば出てくるものでした。